釣り人垂涎の海底地形を提供する「釣りドコ」

2022.11.24

地形情報が釣り人を次のステージに連れて行く

国内で600万人を超える愛好者を誇る一大レジャー産業が“釣り”だ。馴染みのない者からするととてもアナログな世界だと感じられるかもしれないが、コンシューマー向けの魚群探知機をはじめ、釣り業界にもデジタル技術によるブレイクスルーは数多い。そして、そのひとつがアジア航測が提供するウェブサービス「釣りドコ」だ。

釣りドコは、航空レーザ測深機(ALB)によって計測した詳細な海底地形図をウェブブラウザーから閲覧できるサービス。ユーザーは海底の地形から魚のいる場所を予測したり、実際に釣った魚の情報を地図上に登録したり、ほかのユーザーの釣果を参照したりと、釣りの愛好家にとって喉から手が出る情報を提供する。

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青が濃い部分が深く、浅くなると水色や白に近づく。海中の岩の状態や砂地であるといったこともわかる

「釣り人って海の中を見たいという人が多いだろうと考えて、釣りドコではどんな魚が釣れるのかというところと合わせて情報を提供しています。利用者アンケートを見ると、利用者アンケートの結果を見ると、釣り歴20年以上というベテランの割合が多かったです。釣りドコは初心者にもわかりやすいというのもコンセプトの一つですが、長年経験を積まれた方が次のステップを求めて釣りドコを利用してくださるケースも多いのではないかと考えています。これまで、潮汐、天気、風といった情報はありましたが、詳細な海底地形だけは情報がなかったんです」と、アジア航測 ベンチャー共創室 兼 マリンイノベーション推進室の後藤和郎氏は言う。

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アジア航測 ベンチャー共創室 兼 マリンイノベーション推進室の後藤和郎氏

to G/to Bのみからの脱却

もともとアジア航測は、国内の空間情報コンサルタントとしては最大手の一角を担う企業だ。

「アジア航測として、今まで官公庁や基礎自治体からの受託型ビジネス(to G)が中心だった中で、自社サービスを開発してコンシューマー向け(to C)に提供するなど、既存の枠組みにとらわれずに新たな事業を作るために、社内ベンチャー制度を立ち上げました。その時、うちの会社が海底の地形を測れる機材を導入したのをみて、『これは絶対に釣りに使える!』と社内の釣り好きで手を挙げたんです」と同社ベンチャー共創室 兼 マリンイノベーション推進室の高柳茂暢氏はそのスタートを振り返る。「砂地と岩場の境目にいるカワハギを狙いたいとか、砂地でキスを狙いたいけど仕掛けが引っかかるのは嫌だから岩がある場所を避けたいとか、皆さんいろいろ考えながら釣りをするのですが、釣りドコの海底地形図を見ることで、初めて訪れた場所でも、その場所に通い慣れた人しかできなかったような釣り方ができるんです。皆さん、釣りの当日というよりも、前日に狙うポイントを絞るために利用していることが多いようです」と高柳氏は続ける。

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アジア航測 ベンチャー共創室 兼 マリンイノベーション推進室の高柳茂暢氏

船舶から測定する海底地形図というものは存在していたものの、その方法だと船が入れない浅瀬の計測ができない。しかし、釣りで重要なのは浅瀬の地形情報だ。航空機からの海底地形の計測が実現して初めて誕生した釣りドコだが、ではどんどん日本中の釣り場の地形を掲載していけるかと言えば、そうともいかない。その最大の理由は、計測費用だ。

後藤氏は、「日本の沿岸は3万5000kmほどありますが、釣りドコで海底地形を提供している割合は全体の1.6%程度です。特に日本の沿岸・海岸は行政の管理・所管体制が複雑で、かつオープンデータもほとんど存在しません。ALBによる計測と図面化はいいデータが得られる反面、コストが高いので、簡単には公開エリアを拡大できないというのが難しいところです」と説明する。

高柳氏は、「国や自治体の業務で計測したデータは発注者側の持ち物なので、釣りドコで使うことはできません。ただ、機材チェックのための試験的な計測や、研究目的の計測など、自社で計測したエリアに関しては可能な限り公開するようにしています。釣り人として、ここの地形も見てみたい! という場所がまだまだ残っている状態なので、もっとオープンデータ化が進むとありがたいですね」と期待を寄せる。

たとえば静岡県は全域の空間データを取得・保管・オープンデータ化する取り組みを進めており、釣りドコでも静岡県のオープンデータを利用したことで、静岡県を含め多くの人に利用してもらえるようになった(つながることができた)。こうした取り組みが全国的に広まれば、釣りドコもいっそうの拡大を果たせるだろう。

「会社からは何で無料で公開するのかと言われましたし、展示会の来場者からは『有料でも利用したい!』という声もあるのですが、有料にすると利用者が激減して広がりがなくなってしまうんですよね。ALBはまだ新しい技術で、世の中にこんな海底地形図があるというのはほとんどの方が知らないと思います。なので、まずはこの海底地形図を知ってもらって、そのうち『うちでもこういう地図を作って欲しい!』という話が出てきて、結果的に本業の計測にもいい影響が出るのではないか、という考えがあります。それにto C向けにやっていると『こんなおもしろいことをやっている会社があるんだ』と興味を持って頂けて、もしかしたら当社にいい人材が入ってきてくれるかもしれない、という淡い期待もあります(笑)」とは高柳氏。

イチBizアワードを通じてつながりを

内閣官房は地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」を今年から開催しており(応募はすでに終了)、2022年12月6日~7日に開催される「G空間EXPO2022」にて発表・表彰する予定だ。

高柳氏は「イチBizアワードを通じてどんどん人とつながっていきたいというところはありますね。自分たちでいろいろ考えても限界があります。そこでいろいろな人とつながって、我々がハブとしていろいろなアイデアをつなげて良い方向につながっていければなと思っています」とコメントを寄せてくれた。

提供:アジア航測

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